みなさん、こんにちは!英御流の杏奈です。
今回は日本舞踊の基本を一つずつ説明する「知るべし!日本舞踊の基本シリーズ」の第1話です!
知るべし?
なぜ基本を知らないといけないでしょうか?
日本舞踊の基本はなぜ知るべき?
体の動き、小道具、振りなど、日本舞踊には「基本」がたくさんあります。
その基本を一度覚えたら、どんどん上達できるようになります。新しい振りの覚えや、カタチの調整が早く、楽になるのです。
日本舞踊を学ぶのは、定食を作るのと一緒です。
変な例えかもしれませんが、説明してみましょう。
定食と聞いて何が浮かびますか?天ぷら定食やハンバーグ定食、豆腐の定食などでしょうか。定食は、主菜だけでなく、玄米か白ご飯、味噌汁か豚汁など、主食や副菜も色々な選択ができるようになっています。あらゆる主菜、副菜の組み合わせを数えたら、一体何千種類の定食になるのでしょうか?想像できない数ですね。
料理を学びはじめる時に、定食の単位では学ばないですよね。定食に出てくるそれぞれの料理とその基本を学びます。ご飯の炊き方や味噌汁の作り方、お魚の焼き方、基本を覚えれば、料理のレパートリーが増えます。好きな単品を組み合わせ、定食だけではなく、他のメニューもたくさん作れるようになります。
日本舞踊も同じです。数えられないくらい演目があります。その上、新舞踊や創作舞踊なら新しい踊りが毎日のように生まれます。しかし、その演目の中に出てくる振りも基本に寄り添ったものです。その基本をしっかりと覚えれば、新しい踊りでも早く綺麗に踊れるようになります。
>このように基本が非常に大事なのですが、毎日のお稽古では、基本の練習が忘れられがちですね。
このシリーズでは、毎回一つの基本を紹介していきます。正しいカタチとともに、なぜこのカタチになったかの背景やその深い意味も説明します。みなさんにたくさんの演目に挑戦、早く上達していただきたいと思いますので、これらの基本をぜひ参考にしてくださ〜い。
出る
日本舞踊の基本シリーズは、「出る」基本から始めたいと思います。
大きく分けてみると、日本舞踊では二つの出方があります。
一つは板付き(いたつき)と言い、幕が開いたら踊り手が既に舞台(板)上にいる出方です。もう一つは、舞台の横から、または、花道から舞台に出る方法です。
今回は二つ目の出方の基本を紹介しますが、なぜ出方の基本がとっても重要なのかを先に考えてみましょう。
舞台に「出る」のは、観客が初めて踊り手、そして踊り手が演じる「人物」を見る、非常に大切な最初の瞬間です。役柄や感情、場面の雰囲気など、踊り手がこれから語ろうとする物語の導入部分です。観客にとって、これから何が起きるか、期待を高める大きなヒントにもなります。
残念ながら、出方の基本の重要さを忘れてしまう踊り手が少なくありません。
歌がまだ始まっていないので、準備の時間として勘違いしてしまうのです。
「センターはどこだったっけ?」「稽古場よりセンターまでの距離が長い!間に合うのかな?」と心配してしまう。
緊張のあまり、「とりあえず出よう」と慌ててしまう。
「出」から失敗してしまう理由は様々ですが、「出」の失敗は痛手です!
想像してみましょう。
可愛い舞妓さんを演じる踊り手がいたとします。華やかな着物をまとい、白い顔は派手な紅で染めて、頭を動かす度に立派な髪飾りが軽やかに小さな音を立てる・・・とてもかわいらしい姿です。ところが舞台に出る姿が、まるで東京の街を粉々に踏み潰すゴジラのようだったとしたら・・・?(汗)
そこからどんなに頑張っても、観客は「可愛い舞妓さん」にはど〜しても見えなくなってしまうでしょう。
カタチだけでなく、出る時の雰囲気もとても大切です。例えば、恋人を失った若者のとても悲しい物語なら、「いよいよ私の本番だ!」と嬉しそうに舞台にピョンピョンと出ちゃいけないですね〜(笑)
お客様が混乱してしまって、ストーリーに入り込めなくなってしまうのです。
では、緊張感などにやられずに、最初から完璧な印象を与えるためにどうすればいいでしょうか?
1. 本番前に舞台に慣れましょう。
舞台袖から中心まで、稽古場と舞台の距離が異なる場合が多いです。距離がほぼ一緒でも、慣れない舞台の雰囲気や緊張感で、中心から外れてしまったり、歌の始まりまでに定位置へ行けなかったり、または、早く移動し過ぎてしまったりすることがありますね。
このような失敗を防ぐために、本番前に一度舞台袖から中心までの距離を実際に出て確認してみましょう。中心に着いたら、中心のポジションを覚えましょう。客席や舞台の分かりやすい目印を決める、など舞台の中心を覚える方法は様々です。
中心を確認すると同時に、周りをしっかりと見て、雰囲気に少しでも慣れてみてもいいでしょう。
2. 裏は舞台の一部として考えましょう。
舞台に出る前に、余裕を持って舞台袖にスタンバイをするのは当然ですね。
お客様がまだ自分の姿が見えないところで本番を待っている時間を有効に使いましょう!頭の中で役や演目の雰囲気を思い出し、早めにカタチを作っておくといいです。出る瞬間の印象がより自然になり、人物のストーリーや背景が観客に伝わりやすくなります。
余談ですが、下駄を履いている役などでは、出る前に下駄の音をカタカタと出して、これから出るぞとお客様に知らせることが多いです。
3. 胸は客席のほうに向けましょう。
横から舞台の中心に出る時に、舞台の正面にある客席に自分の横側が見えるのは当たり前に思えます。
でも、これは大間違いです!
考えてみてください!人間のもっともつまらない面はどこでしょうか?
横ではないかと思うのです。横顔は表情が読みづらいし、体の動きがほぼ見えません。だから、踊りではできれば自分の真横を見せないのが基本です。
でも・・・どうやったら出る時に客席に自分の横側を見せずにすむのでしょうか?
秘密は「出」の基本にあります!
出る形はこうです:
足は進む方向(舞台袖から中心までだと斜め)に向いているのに対して(そうしないとカニになってしまうからね・・・笑)胸は、正面に向いています。上半身をねじっている状態です。
女の場合は、後ろの肩を下げ、頭を少し倒し、角から覗くようなカタチを作りましょう。このカタチで、踊り手は進む方向が見えるけど、正面から見ている観客は踊り手の真横ではなく観客にとって顔や胸がより見えやすくなるのです。
とはいえ、そのカタチで固まってしまうのも面白くありません。だから、上記のカタチを作ったら、体を少し左右に振ってみましょう。左足が出たら胸は左に、右足が出たら胸が右に。柔らかい印象や色気が出るように、慣れたら振り幅を小さくしてみましょう。
ここで注意点があります。それは胸を振る軸です。
出の基本では胸が客席の方に向いていると言いましたね。そのため、上半身の軸は進む方向(足が向かっている方向)ではなく、正面の方にあります。胸を左右に振る時に、軸が正面から進む方向にずれないように気をつけて下さい。胸と頭が進む方向に向いてしまうと観客に自分の横側を見せてしまうのです。
最初は違和感があるかもしれませんが、練習すればすぐに慣れますよ。
4. 固めずに形を自然に変えてみましょう。
一つのカタチで固まってしまうのが面白くないので、胸を小さく振ろうと先ほど述べました。
「出」をさらに自然に見せるために、手の動きなどにも変化をつけてみましょう。例えば一つの手は裾で、一つの手は化粧手として胸の前にあるとしたら、化粧手を(すこしでもいいので)体から離したり下げたりなどすると、動きが柔らかく自然に見えます。
5. 見る作業を忘れないように。
最後に見る作業も忘れずに〜!
日本舞踊は物語・ストーリーを語る芸能ですね。物語の雰囲気や役の感情が踊り手の動作だけではなく、踊り手の目でも伝わります。だから最初から見る作業をしっかりと行いましょう!
例えば、自分の演じている役が誰かを探している役なら、あちこち見ないとそれらしく伝わりませんね。また、気持ちいい春の日に散歩する役だとしたら、咲いている桜や綺麗な青空、周りの散歩者を想像し、のんびりと眺めてみましょう。
観客は踊り手が描こうとしているストーリーを想像できると、踊りをより楽しめます。
いかがでしょうか?
舞台の確認や胸の振り方、見る作業など、上記の基本を守れば、今度舞台に出る時に、最初から観客の心を掴めるに違いないですね〜(笑)