みなさん、こんにちは。英御流寿光(はなぶさごりゅう ひさてる)です。
突然ですが、私は日本舞踊を皆さんに教える中で、常々もったいないと感じていることがあります。それは、日本舞踊の門戸を叩く男性が少ないということです。実際に英御流(はなぶさごりゅう)でも大半の経験者は女性です。バレエやジャズダンスなども女性が圧倒的に多いと思いますが、日本舞踊には特にお嬢様しかやらない習い事というイメージがありますよね。男性にとってはますますハードルが高く、縁のないものとして感じられるのでしょう。
でも、元歌舞伎役者、男性の日本舞踊家である私にとって、それは本当に残念な話です。
男性にこそ日本舞踊の魅力を理解していただきたい、一度でも試していただきたいと思い今回の記事を書きました。どうぞ最後までお楽しみください。
日本舞踊の多様な物語と魅力的な男役の数々。恥ずかしがらず挑戦してみましょう!
そもそも男性に日本舞踊をやるべきとおすすめする前に、日本舞踊は女性の習い事だというイメージについて考える必要があると思います。
なぜそのイメージが根強くあるのか、原因は日本舞踊が昔花嫁修業の一部だったことにあるでしょう。ただ、日本舞踊の歴史や内容を考えると、それはとてもおかしな話です。日本舞踊にもっとも影響を与えた歌舞伎は男性しかやらない芸能ですし、また多くの演目で主人公は男なのです。
主人公といえば…日本舞踊は他のダンスのようにただ音楽のリズムに乗って体を動かすものではなく、はっきりとした物語や役があり、どちらかというとお芝居と非常に近い芸能です。
物語も千差万別、たくさんありすぎて説明に苦労するのですが、歌舞伎舞踊なら以下のようなカテゴリーに分けられます。
- 教科書に載っているような史実に基づいたお話(例:平家物語)
- 伝統的なヒーローたちを題材にした伝説(例:助六、義経千本桜)
- お化けや妖精、変身できる者の話(例:藤娘、鷺娘、娘道成寺)
- 動物が主人公になる物語(例:連獅子)
- 切ないラブストーリー(例:曽根崎心中、櫓のお七)
- (昔の)日常の暮らしを題材にしたお話(例:団子売り、お祭り)

歌舞伎舞踊以外に、歌謡曲やポップスなどどの曲でも伝える新舞踊になると、物語やその中に出ている役の範囲がさらに広がります。
- 時代劇や大衆演劇などでよくみられる股旅物(例:瞼の母)
- 日本各地域の人たちの生活や特徴を描くもの(例:おてもやん)
- モダンな人々とヒーローたちのお話(例:湘南乃風の「PANDEMIC」)
- などなど
いかがでしょうか。日本舞踊には華やかなお姫様やかわいい娘のイメージが強いかもしれませんが、以上のリストをご覧になれば、凛々しい男前の役や女性の心を掴むハンサムな二枚目を中心とする踊りもたくさんあることがよくわかるでしょう。
だから、歌舞伎役者のように女性を演じたり踊ったりすることに対して抵抗がある男性でも、日本舞踊ならさまざまな男役に挑戦し楽しめるにちがいありません。
日本舞踊は男性も恥ずかしがらずに楽しめる習い事だとわかったところで、男性が日本舞踊によって得られるメリットについて紹介していきましょう!
想像力・表現力が育つ

日本舞踊において最も重要なポイントは、観客に物語や役を分かりやすく伝えることです。
古典の場合、聴き取りづらい歌がほとんどなので、物語の流れや役の特徴をはっきりと演じなければ観客は歌も踊りもよくわからず楽しめません。また歌謡曲やポップスを使った新舞踊の場合、言葉は聴き取りやすく、観客が曲の内容と踊り手が見せているものが合っているか簡単に判断できるので、お芝居をしっかり行わないと納得してもらえません。
そのため、日本舞踊家に最も欠かせないスキルは想像力と表現力です。
- 想像力:わかりやすい踊りを仕上げるために、いつ・どこで・何がなぜ起きているのか、伝えたいストーリーをしっかりと考えて、咀嚼(そしゃく)しなければいけません。また、徹底的な役作りには自分が踊る人物の年齢、職業、感情など人物背景のすべてに想像力を働かせる必要があります。
- 表現力:ワイルドな獅子からハンサムな鳶頭まで日本舞踊には幅広い役が存在します。それぞれの役の特徴をわかりやすく見せるためには、表現力が欠かせません。
もちろん、最初から自信満々に踊るのは難しいものです。実際、稽古を始めたばかりの頃はお芝居をするのが恥ずかしくて、想像力や表現力なんかとてもとても…と思ってしまう方が多いです。でも、いろいろな踊りを観たり自分で挑戦してみるうちに自然と自信や好奇心が出てきます。自分にはないと思っていた想像力と表現力が知らないうちに湧いてきて、踊りがますます楽しくなります。
仕事や日常生活では、ひと味違う自分に出会ったり架空の世界を想像し楽しむ、なんてことはまずないでしょう。日本舞踊は日常生活を超えて新しい自分や世界と出会う入り口になります。豊かな想像力や表現力を身につけ、退屈な毎日に彩りを添えたいと思う方は一度日本舞踊を試すべきです!
男性らしい所作・男性の色気を身につけられる

以前述べた通り、日本舞踊ではさまざまな男性の人物が現れます。例えば・・・
- 荒事:非常に力強くて、男の中の男のヒーロー(例:999個の武器を常に背負っている弁慶)
武士:刀の達人(例:義経) - 二枚目:色気が溢れ出ていて、どこに行っても女性たちの注目を浴びるイケメン(今風でいうとジャニーズ系)(例:ザー江戸イケメン 助六)
- 若い衆:お祭りを賑やかす粋な少年(例:申酉の主人公 、鳶頭)
もちろん、それぞれの役の特徴によって振りや動きが大幅に変わります。例えば、荒事は大げさなぐらいに力を常にアピールしますが、二枚目はやわらかく、色っぽい振る舞いが特徴です。
こうした幅広い役に挑戦することにより、昔から現代まで男女問わず憧れられる日本男子らしい魅力を自分のものにできます。

「もう若くないよ」「シックスパックもないし力強さは表現できない」「私には色気なんてないよ」と思った方もご安心ください!男女、体型、年齢関係なく、日本舞踊のお稽古をしっかりすれば、男の色気、力強さの表現、絶妙な魅力など理想的な振る舞いを身に付けることができます。
むしろ普段から自分の立ち居振る舞いにあまり自信がないという方にこそおすすめしたいです。より男らしく振る舞えるようになりたい、仕事でのプレゼンテーションをよりスマートにしたい、女性から魅力的に思われる男性らしさを身に付けたいという方、日本舞踊を試してみませんか?
姿勢が矯正され、自然と鍛えられる

1日中座っているのは1日15本のタバコと同じくらい身体に悪影響を与えるということをご存知ですか?デスクワークが多い方は日々実感しているでしょう。肩こり、腰の痛み、頭痛……日本舞踊は多くのサラリーマンが抱えるそういった悩みを改善できます!
英御流の体験稽古でも約1時間の稽古を終えると「意外と大変ですね!」と汗をかいたことに驚く方がほとんどです。ゆっくりとした踊りで楽なイメージを持っているからでしょう。
たしかに、ゆっくりとした踊りは多いのですが、動きはゆっくりでも体力を使います。中心をぶらさずかたちを一つずつ綺麗にみせるために、姿勢を矯正し膝を若干曲げ(腰をいれる)、剣道や空手と同じように丹田やお尻に力を入れる必要があるのです。コアマッスルが鍛えられますよ!
また、男踊りの場合は激しい踊りもたくさんあります。特に古典で出てくるヒーローたちは大げさな振りが多く、全身をたっぷり使います。
ただ、運動で鍛えるのとは違い、物語を考え役を作りながら進めるものなので、苦労はあまりしません。振り・踊りの流れを一つずつ覚えるうちに、自然と身体が鍛えられますので、日本舞踊はスポーツが嫌いな方でも続けやすいワークアウトと言えます。
人前に立つ自信がつく

日本舞踊は人前で披露するものです。日々お稽古を重ねる日本舞踊家には目指している夢の舞台があります。
いま、「大勢の人の前で踊るなんてとてもできない」と思っていませんか?
たしかに、最初は先生や先輩方の前でお稽古するだけでも怖くて、恥ずかしく感じる方が多いです。
でも英御流の場合は、稽古場の雰囲気が常にリラックスしていて笑いで溢れているので、余計な緊張感はあっという間に消えてしまうでしょう。どんどんお稽古が楽しくなり、新しい役や動きに気軽に挑戦したくなると思います。
「先生の前でのお稽古と、舞台に立つのとは違うでしょう?!」
たしかに、違います。緊張のあまり手が震えたり汗をかいたり振りがとんだり。大勢の前でスピーチしたことがある方なら舞台ならではの緊張感をよくご存知でしょう。
ただ、それも結局は慣れです!最初は先生や先輩方の前で踊るのが精一杯かもしれませんが、稽古を重ねるうちに技術が磨かれ、家族、友達、同僚など他の人に披露したくなるに違いありません。
また日本舞踊の場合、舞台に上がるのは自分ではなくその「役」です。スピーチなどと違い、それぞれの役の力を借りることができます。私の弟子にも、力強い男役を演じると自然に自信がでてあまり緊張しなかったと驚いていた人がいます。その人も最初は舞台に立つのがとても苦手でしたが、振り付けをしたり、かつらや衣装などを考えたりするうちに舞台の雰囲気に完全にはまり、今は一番舞台に出たがる弟子になりました。
人前に立つことが好きな人はもちろんのこと、苦手意識を持っている方でも日本舞踊を通じて人前で何かをやることを楽しめるようになります。だから、ミーティングで自分の意見を言ったり、イベントでスピーチする自信のない方々こそ、日本舞踊に触れてその自信を身につけてください!
日本文化をより身近に感じられる

英御流の体験稽古には「日本舞踊について詳しくはわからないけれど、日本人として代表的な日本の芸能を理解しておきたい」という方もたくさん参加されています。
たしかに、日本舞踊は歌舞伎やお能、座敷舞などさまざまな日本の踊りから影響を受けた重要な日本文化の一つです。それに着物の着付けや着物にふさわしい動きを習ったり、伝統的な話や昔の習慣に触れたり、刀や扇子、和傘といった日本らしい小道具を扱うこともでき、日本文化を身近に感じる素晴らしい機会と言えるでしょう。日本の伝統文化に興味のある方はぜひ一度触れてみてください!
まとめ
日本舞踊には女性のイメージが付きまといますが、今回の記事で説明した通り女性向けの習い事というわけではありません。日本舞踊には素晴らしい男役が登場する演目がたくさんあるので、歌舞伎やお能と同じように男性にも楽しんでいただきたいです。
また、男性も日本舞踊を習うことで表現力と想像力が育ち新しい自分に出会うことができます。しかも、自然と身体が鍛えられて自信がつくのです。生活がより豊かに、そして楽しくなること請け合いです!日本舞踊を通してたくさんのものが得られますので、ぜひ一度お試しください。