こんにちは、英御流杏奈(はなぶさごりゅう あんな)です。
突然ですが、日本舞踊って何だと思いますか?
ちょっと恥ずかしいですが、6年間日本舞踊をやってきた私でも「日本舞踊って何?」と聞かれたら、答えに困ってしまいます。
勘違いしないで下さい!先生のお話を聞かず、日本舞踊のことを理解していない訳ではないですよ(汗)。日本舞踊は、二・三文で簡潔に定義できるものではないのです。
ただ、日本舞踊についてブログを書こうとしている以上、テーマをきちんと定義しない訳にはいかないですよね。
そのため、この記事で日本舞踊を定義しようと、色々と調べてみました。
出てきた答えはさまざまです。
「日本舞踊は、歌舞伎を母胎として民俗伝承の芸能を吸収し、近代になって洋舞などの影響を消化しつつ、発展してきました。そして、現今、もっとも手近に伝承の心をとらえられるのが日本舞踊なのです。」(西形節子)
「日本舞踊(にほんぶよう)は、 Japanese dance の和訳、すなわち日本のダンスの総称である。日本の伝統的なダンスである舞(まい)と踊(おどり)を合わせたもの。」(Wikipedia)
「日本舞踊はすなわち日本の踊りです。日本の踊りといっても、神楽や伝承民俗芸能、あるいは盆踊りや民謡といった民俗的なものではなく、あくまでも舞台上で上演する事を目的とした一個の舞台芸術です。」(日本舞踊協会)
・・・
うん、ピンと来ないですね(汗)
歌舞伎、お能、洋舞 ー 日本舞踊って一体どういうモノ?
こうした定義は間違っているわけではないけれど、これでは日本舞踊をイメージするのが難しいでしょう。
とりあえず、ここまで分かってきたことをまとめてみます。
- 日本舞踊は日本の(舞台)芸能の一つ
- 日本の伝統芸能(歌舞伎、お能、民族的な踊りなど)から発生したもの
- 洋舞からも影響を受けてきたもの
- 今でも変わりつつあるもの
日本舞踊は、様々な芸能ジャンルから影響を受け、かなり複雑なモノになってしまっているので、「日本舞踊って何?」という問いに簡単な答えが出せなくなっています。
日本舞踊の専門家である勝美巴湖氏ですら:
専門家にとっても「一言では説明しきれない」ほどの多様な要素を持ち合わせていている芸能なのです。」と語っています。
なるほど!
でも私はこんな簡単に諦めません!もう少し考えてみましょう。
子供向けのウェブサイトなら、きっと分かりやすい説明があると思い、Kidswebで調べてみました。こう書いてありました:
「『日本舞踊』は能から伝わる『舞(まい)』と、歌舞伎からでた『踊(おどり)』という2種類の体の動きがあります。『舞』はゆったりした『すり足』、テンポ早く舞台の上を回る動きなど、比較的単純な動作を組み合わせ、くり返します。」
この説明文にも、歌舞伎とお能の影響が出ているけど、前段の定義よりも日本舞踊のイメージがつかみやすいですね。まとめましょう!
日本舞踊は、
- お能からくるゆったりした動き
- 歌舞伎からくる活発的な動き
これらを両方組み合わせたものです。
かなり多様性のある芸能ですね ^_^
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日本舞踊は音楽で区別できますか?
Kidswebを読み続けてみると…
「使われる音楽の基本は三味線で、そこに唄や語りを組み合わせて情景や物語を作り出し、その場面にあった衣装、振り付けで登場人物の心を表現します。また物語とは離れて、リズムのある音楽で大勢の踊り手が賑やかにおどることもあります。」
ここの大事なポイントを整理します。
- 音楽は三味線とともに歌と語りを組み合わせるものが多い
- 歌や語りの内容を振りや衣装などで表現する
- 音楽のリズムに合わせて意味を見せずにただ体を動かすこともある
なるほど、日本舞踊は三味線の音楽に合わせて踊るものです。

確かに、日本舞踊の演目の多くは ― 長唄、常磐津(ときわず)、清元(きよもと)、義太夫(ぎだゆう)など ー 三味線の音楽を利用しています。こういう昔の音楽をつかった演目は「古典」(こてん)と言います。古典を専門としている日本舞踊家が多いので、古典=日本舞踊というイメージが強いでしょう。
しかし、昔の曲意外、演歌やドラマの主題歌など現代の音楽を使った踊りもたくさんあります。形は様々ですが、「新舞踊」や「創作舞踊」などと言います。
音楽で日本舞踊なのかどうかは判断しにくいですよね。相変わらず複雑ですね(笑)。
とりあえずここまでわかってきたことをまとめましょう!
日本舞踊は、日本の伝統的な芸能 (歌舞伎とお能) や洋舞を含め、様々な「ダンスジャンル」から影響を受け、色んな顔を持っているパフォーマンスアートです。利用する音楽も様々です。日本舞踊を大きくわけると、三味線が多い伝統的な音楽を使った「古典」と現代の音楽を使った「新舞踊」や「創作舞踊」があります。
では、影響や音楽により、日本舞踊であるとはっきり区別できないなら、一体何で区別できるのでしょうか?
動きでしょうか・・・?
日本舞踊はパントマイムのようなもの?
続いては日本舞踊の動き(ジェスチャー)にスポットを当てたいと思います!
日本舞踊が使っている歌や音楽はさまざまだけれど、多くには共通点があります。それはストーリー性です。その歌に出てくる人物や風情、その物語などを動きで表すのが日本舞踊の特徴だと言えます。
前述の勝美氏はその特徴をこうまとめます:
「日本舞踊とは....一言で言うなら、[…]パントマイムのようなものです。」
んー、そう言われたら、グラス壁に囲まれていベレー帽をかぶっている人のイメージが頭の中に浮かんでしまいますね(笑)。

もちろん日本舞踊とパントマイムはかなり違う芸術だけど、「パントマイム」を体でメッセージを伝えるという意味でとったら、やはり日本舞踊と少し似ているかもしれません。
日本舞踊の演目の多くは、歌に出ているストーリー、人物像や風景を日本舞踊の独特な振り(ジェスチャー)に「翻訳」し表現します。
少しわかりにくいかもしれませんので、実際の例で説明しましょう!
皆さん、『さくらさくら』という曲をご存知ですか?
花見の風景を描く歌ですね。日本舞踊の「さくらさくら」では、華やかな格好をしている若い女の子が主人公で、かわいい踊りになっています。振り付けは、歌で出ている言葉や場面を桜が描いてある扇子を使って表現します。
例えば…
体の横でかざすお扇子は霧のイメージ

右上から左下まで優しい波で揺れているお扇子は風が散らしている桜の花びら

斜めに歩きながら同じ方向に手で丸を描くのは「皆、桜を見に行こう」と人を呼ぶ振りです。

分かりやすいでしょう?!
じゃ〜、日本舞踊はパントマイムのように歌の中で出てくるものを細かく表現する芸です!
・・・と言いたいところですが、
日本舞踊がすべてそうだとは言えません。
大した物語や人物が出てこない歌にも振りを付けて、踊れるのです。
その時はどうするのでしょうか?
二つの方法があります。
一つの方法は、振りだけでオリジナルのストーリー、役目や風景を作り出すことです。
二つの方法は、リズムに合わせて意味を伝えず単純に「ダンス」することです。
振りでストーリーを語る
日本舞踊では、音楽 (歌)と動き(振り)の間に、三つの関係性が考えられます。
- 振りは歌われている物語やその風景、登場人物を取り上げて表情する
- 振りは歌や音楽と関係なく自らの物語や風景を表情する
- 振りは物語を表現せず、音楽のリズムやメロディーに合わせる
上記の三つのパターンは一つの曲で出てくる場合が少なくもありません。
それぞれのパターンを理解するために、『娘道成寺』という演目を例としてあげましょう。
『娘道成寺』は歌舞伎でよく演出されている、45分を超えるなが〜い、とても面白い踊りですよ!
まずは、あらすじを簡単にまとめましょう。
場面は道成寺というお寺で、女性の立ち入りが禁止されている場所です。
女性はなぜお寺に近づけてはいけないかというと・・・
その昔、道成寺でかなり怖〜い出来事があったのです。この怖〜い伝説の主人公は案珍(あんちん)というお坊さんと、案珍に片思いしてしまった清姫(きよひめ)です。清姫は ー 今の言葉で言うと ーしつこいストーカーです。彼女の気持ちに応えない案珍が道成寺まで逃げると、逃げられた清姫が怒りのあまりに蛇に変身して、大きな鐘に隠れている案珍を燃やしてしまいました。
この伝説のせいで、道成寺に住んでいる坊主たちは女を怖がり、お寺は女人禁制になってしまいました。
ある日、昔お寺や神社で踊ったりした白拍子(しらびょうし)が道成寺に現れます。彼女があまりにも美しいので、坊主たちが恐怖を忘れ、彼女をお寺の中に招きます・・・男たちって単純な生き物ですね〜(笑)。
物語が進めば進むほど白拍子をお寺に入れたのが大間違いだったと分かるようになります。実は、白拍子は実際に坊主たちの仲間安珍を殺した清姫だったのです。
最後、清姫が鐘を登って、蛇姿を見せます。
日本舞踊の演目『娘道成寺』は美しい白拍子が道成寺に現れる場面から始まります。その後、彼女は坊主たちと面白い謎かけの会話をし、お寺の土地に入って、切ない気持や恨みを鐘に投げ、最後に鐘を登り、蛇に変身します。
その構造の中に以前に説明した振りと歌の三つのパターンが出ています。
- 振りは歌に出ている物語、風景や役目を取り上げ表情する:清姫は道成寺に入った後、様々な小道具 ー 扇子、小太鼓、笠など ー を使って自分の想いを表現します。その中の一つの部分(第八段)は手ぬぐいを使った踊りです。歌も舞踊も女性の恋心を描き、感情が溢れ出る場面です。
振りも分かりやすいです。例えば、手ぬぐいを左手にかけ鏡に見たてて、紅を口に塗う姿は、好きな男性に会う前にドキドキしながら準備する現在の女性と一緒でしょう。 - 振りは、歌や音楽と関係なく、物語、風景や役目を表情する:第六段では歌と振りの間にかなりのギャップが生まれてきます。歌は遊郭(ゆうかく)を詠み込むのに対して、振りは鞠で(お花のボール)遊んでいる女の子を描きます。・・・(O_O)!
- 振りが物語、風景や役目を表現せず音楽のリズムやメロディーに合わせている:第九段はかなり不思議な部分となっています。歌は『山づくし』といます。名前通り(!)日本の山を詠み込みます。もちろん、踊り手がずっと「山」を表現する訳にはいかないので、しょうがなく、小さい太鼓を使ってリズム良い「ダンス」を見せます。
個人的な解釈になりますが、日本舞踊は「芝居」(=ジェスチャー、表情や言葉でストーリーを語るもの)と「ダンス」(=リズムやメロディーに合わせて体を動かすもの)の間のものだと思います。
それぞれの演目が「芝居」寄りか「ダンス」寄りなのかは、音楽、振り付け、解釈、目的、時代、日本舞踊家の好みによります。しかし、どんなにダンスっぽいものでも、日本舞踊の振りには必ず意味があるので、ストーリーや気持ちを伝える「芝居」っぽいところがほとんどの演目にはあると言えるでしょう。
今まで分かってきたことをまとめてみると、日本舞踊は歌舞伎やお能、また、洋舞からも影響を受けたパフォーマンスアートの一つです。利用する音楽により、「古典」(三味線などの伝統的な曲)と「新舞踊」や「創作舞踊」に分けられます。多くの日本舞踊の演目では歌の内容、または、意味をもっている独特なジェスチャー(振り)によりストーリーを表現します。「お芝居」と「ダンス」の間の妙な存在です。
いかがですか。日本舞踊のイメージが少しかたまってきましたか。
まだですか?
じゃ、続いては日本舞踊に欠かせない用品について考えていきます。日本舞踊が一体何のかが明らかになりますよ!
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日本舞踊は衣装で分かる?
「日本舞踊を習います」と友達や知り合いに伝えるたびに、だいたい最初に「へ〜、着物を着れるの?」と言われます。
着付けの話ではないので、毎回「着物が着れるの?」と聞かれるとはちょっとおかしいですね!
実はそうでもない!
確かに、日本舞踊は着物と強く連結しているものなのです!
日本舞踊の振りは日本で生まれた動きやジェスチャーです。
日本といえば着物ですよね。今は結婚式やおしゃれしてお出かけするときだけ着る物になってしまったけど、昔の日本人は着物で生活していました。
着物を着たことがある方は、襟(えり)、裾(すそ)や袖(そで)など、独特な形のある着物に体の動きを合わせないとどうにもならないことを経験したこがあるでしょう。日本舞踊も同じです。日本舞踊は昔の日本で生まれたもので、着物の歴史とともに進化してきました。そのため、全ての振りは着物の形とそれにそう体の動きに合わせたのです。
日本舞踊をやるときに綺麗な姿勢を保たなければなりません。他のダンスと違って動きの幅が比較的に小さいし、激しい動きはほとんどありません。それは、帯や裾に体の動きが制限されているためで、また同時に、裾の乱れなどを避けるためです。
また、着物を踊りに取り込む振りも少なくはありません。例えば・・・
- 袖先を丸めて顎の脇において枕にする
- 衿を胸元でとって滑らすように上に引き上げ、またすぐにシュッと引きおろす振りが「衿をただす」、気持ちを入れることを表現する
- 袖を開いて手紙と見立てて文を書いたら、袖先を小さくうちに丸めて巻き手紙にして胸に抱いて開いてに届ける
やはり着物は日本舞踊にとって欠かせないものですね。
だから、綺麗に着物を着こなしたい方、日本舞踊をぜひ習ってみてください!歩き方、袖や裾の扱い方など、少しだけでも日本舞踊の基本を体になじませたら、男女問わず着物姿の魅力がさらにアップしますよ ^_^ 。
今回分かってきたことを含め、「日本舞踊って一体何なのか」をもう一度まとめてみましょう!
日本舞踊は、
- 歌舞伎やお能から、また、洋舞からも影響を受けている
- 三味線の音や歌謡曲など利用する音楽により「古典」と新舞踊や創作舞踊に分別される
- 着物や昔の衣装を着て行う
- ストーリーを語るパフォーマンスアートである。
んー、日本舞踊はかなり複雑な芸術ですね。上記の定義は完成だとは言えないけど、重要なポイントにひととおり触れているのではないかと思います。
みなさん、いかがでしょうか?上記の定義に納得していただけましたか。
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